平成29年度過去問、試験Ⅰ問題1、問題2の対策
前回に引き続いて、平成29年度過去問の試験Ⅰ問題1、問題2の対策です。前回、ここの問題は日本語教育の知識がなくてもある程度解けると言いましたが、今回もそれを実証したいと思います。
問題1
(1)【音声的対立】
まずは正攻法の解き方です。毎回お馴染みの下の表をご覧ください。
選択肢3、4、5のそれぞれの音声記号が赤丸の中に入っています。調音点と調音法が同じということですね。音声的対立があるとすると、何か別の発音法になります。
これに対して四角で囲った選択肢2の音声記号は、調音点が異なります。つまり、調音点で対立しています。したがって、答えは2です。
ちょっと待って、選択肢1はどうなってるのという声が聞こえてきそうです。
そうですね。選択肢1の[θ]と[ð]は、日本語の発音では使われないので、この表には入れてません。
でも、思い出してください。中学校で習ったthink[θíŋk]とthis[ðís]を。[θ]と[ð]は、どちらも、発音の仕方はほとんど同じだったはずです。つまり、調音点と調音法は同じでした。
では、選択肢1、3、4、5はどこで対立しているのでしょう。ここで皆さん、例の「葉っぱ坂田」の再登場です。ハ行、パ行、サ行、カ行、タ行は無声音というものでした。
今仮に、選択肢1、3、4、5の音を、それぞれ「ス/ズ」「タ/ダ」「シ/ジ」「パ/バ」とすると、左の音は全部「葉っぱ坂田」です。
もう分かりましたね。無声音と有声音、声帯振動の有無が対立点でした。
以上が正攻法の解き方です。でも私の無手勝流はもっと簡単です。先ほどの「ス/ズ」「ヒ/フ」「タ/ダ」「シ/ジ」「パ/バ」を口パクで読むだけです。
どうですか。「ヒ/フ」のときだけ口の形や舌の位置が大きく変わりませんでしたか。そして、ほかの「ス/ズ」「タ/ダ」「シ/ジ」「パ/バ」はほとんど変わらなかったんじゃないでしょうか。
このやり方では対立点は分かりません。でも、これでいいのです。一つだけ違うのが分かればいいのですから。
(2)【句末での無声化】
有声や無声といったワードが出てきたら、迷わず「葉っぱ坂田」です。
句末なので句末の拍を書き出します。1から順に「う、む、い、り、しゅ」となります。この中で「葉っぱ坂田」は「しゅ」だけです。したがって答えは5です。
検定試験の試験Ⅰは100問です。これに対して試験時間は90分です。つまり、1問平均54秒で解かないといけません。
でも、問題3以降は結構時間を要します。ですから、この問題1と問題2をいかに短時間で終えるかがキモになります。poomanの無手勝流なら1問30秒はかかりません。
句末の無声化についてきちんと理解したいという方は、赤本第5版の486ページで、母音の無声化を確認してください。
(3)【東京方言のアクセント型】
東京方言て、何でしょう。私は分かりませんでした。とりあえず選択肢を黙読しました。すると、「あわび」だけ「高低低」アクセントで、他は「低高高」でした。答えは4としました。合っていました。10秒でした。
(4)【漢字の成り立ち】
選択肢を見て、「ははーん、象形文字だな」と思ったらもう簡単です。5の「林」だけ「木」が二つあります。5秒で解けますね。
(5)【借用における文法形式の脱落】
これも、よく分かりませんでした。特に2のシフォンケーキは食べたことはあるものの、どういう名前由来なのか知りませんでした。
でも、ほかの選択肢を見てみると、みな「マッシュされたポテト」「スモークされたチーズ」「アイスされたコーヒー」「スクランブルされたエッグ」と、本来は受身形なのが分かりました。
(6)【派生語の語構成】
そもそも、この【 】内に示された観点というのがよく分かりません。でも、そんなこと言ってても仕方ないので、とりあえず「栄養士⇒栄養を考える人」「調査官⇒調査する人」「審査員⇒審査する人」「依頼人⇒依頼する人」「看護師⇒看護する人」としてみたら、栄養士だけ別物と分かりました。
(7)【活用】
これは簡単ですね。2だけ自動詞「混じる」、他動詞「混ぜる」と活用しますが、他は「ドアが閉じる」「ドアを閉じる」というように自他で活用が変わりません。
(8)【助動詞の意味】
これも、うまくは解説できませんが、1以外は「ない」に置き換えることができるのに対し、1の「ぬ」はそういう意味ではありません。
(9)【形容詞の格】
4だけ「水を欲しい」と言えますが、他は言えません。したがって4と解答したら、合っていました。
(10)【行為欲求のモダリティ】
3以外はどれも要求の表現ですが、3は確認です。
(11)【二つの出来事の継起を表す表現】
【 】には難しいことが書いてありますが、選択肢を読んでみると5だけ何か違うということが分かります。4までは前件と後件の時間的関係ですが、5は違います。
(12)【否定の焦点】
これは少し時間がかかりました。でも、3以外は「ぶつけたんだけど、ぶつけたんじゃない」「泣いているけど、泣いているんじゃない」というパターンだと分かり、3に決定。合っていました。
(13)【副詞の呼応】
「いまだ・・・ない」「なぜ・・・か」「もし・・・ならば」「どうぞ・・・ください」とセットになった言い回しですが、5の「あいにく」だけは決まって対応する言葉がありません。
(14)【「ご」の用法】
3以外は、相手の行為や物に付けられる「ご」ですが、3の「ご褒美」は丁寧に言うための「ご」です。
赤本によると、2007年2月に文化審議会国語分科会から答申された「敬語の指針」で、それまでの尊敬語、謙譲語、丁寧語の3分類から謙譲語を謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱ、丁寧語を丁寧語と美化語に分けて5分類とされたとのことです。
なぜそのように複雑化する必要があるのか、私には理解できません。「ご案内」を例に挙げると、立てる人物の「ご案内」は尊敬語、自分が「ご案内」したら謙譲語Ⅰ、どちらでもない「ご案内」は美化語? これをどうやって外国人に教えるのでしょうか。また、そんな必要があるのでしょうか。否、外国人に限りません。日本人にだって必要ないと思います。「ご案内=丁寧語」で、なぜいけないのでしょうか。どなたか教えてください。
(15)【「って」の用法】
1以外は、「って」を「という」に置き換えられます。
問題2
(1)
誤用例と1から3は、拍数は変わっていませんが、4だけ拍数が増えています。したがって、答えは4です。
(2)
誤用例は「担当しゃ」と音読みすべきところを「担当もの」と訓読みしています。2から4は同じ誤用ですが、1は濁音を清音で読む誤用です。
(3)
誤用例の「混雑になりました」は、「混雑しました」の誤用です。でも、3の「親切になりました」は、「親切しました」とは言えません。
(4)
誤用例は道具としての「遊ぶもの」を「遊びもの」と言う誤用です。1の「ジュースやお茶」は道具ではありません。ストローだったら良かったですね。
(5)
誤用例の「私は・・」は、「私が・・」の誤用です。でも4はそこではなく、「痛いんですから」に誤用があります。
それでは検証です。問題1と2を合わせて20問中、日本語教育の知識がないと解けない問題は問題1の(1)と(2)、問題2の(1)の3問でした。残りの17問は、普通の国語感覚で十分解ける問題です。
それに、問題1の(1)と(2)、問題2の(1)の3問は音声問題と重なります。つまり、音声問題対策をしていれば解ける問題です。
ということで結論です。試験Ⅰの問題1と2は、特別な勉強を要しません。その分、他の分野に傾注しましょう。